モノモノしいイカ

 第15回国際テクノロジー・アート・404フェスティバルの一環、10/12ドーム・ショー@福岡市科学館ドーム・シアターに行ってきた。若干の私的印象を残しておこうと思う。
 プラネタリウムの天球に映像を映し、これとサウンドの関係を問う作品が五つ並んだ。別々の映像と音をシンクロさせるもの、音をライヴで発生させる身体のセンスを映像の動きに変換するもの、映像内の動きに音を合わせるもの。
 トリを飾った真鍋大度 + 堀井哲史の作品「Phenomena」は、軽くて単調なベース音にさまざまな電子音が積み重ねられたりリズムから離散したりするサウンドと、白鍵の断片のようなものが全方位的に運動を展開する映像から構成されていた。右に動いているのか左に動いているのか、吸い込まれていくのか吐き出されているのか、方向感覚を失調させるような映像を見ているうちに、どれがベースのサウンドなのかときどきわからなくなる。全天球型の無重力的な視覚経験に聴覚経験が巻き込まれていくような眩暈を堪能した。
 横川十帆+牟田春輝の「イカ・ディスプレイ」はライヴパフォーマンス。(無事)呼子から取り寄せたイカをハサミで開き、内臓を外してディスプレイを制作する過程が矩形のスクリーンに流れる。ほどなく映像はCCDカメラ(?)でズームアップ、色素胞の点々が大写しになる。リズミカルな重低音が流れ始めると、半死半生(ゾンビ?)のイカの筋が収縮・弛緩しはじめる。色素胞の表面積が拡大・縮小、瞬時に赤や、黄色、黒へと、サウンドに応じて体色を変えていく。
 どうやら、こいつは、イカの色素胞変色に最適化された周波数を計算し設計されたサウンドらしい。しかも、サウンドを構成する周波数を電気信号に変換してイカに直接流しこんでいるらしい。つまりわたしは、イカの身体に流れるサウンドを目にしながら、イカ・ディスプレイに映し出されるライヴ映像を聞いていたことになる。
 イカ研究の成果を生かしてデジタルにつくられたサウンドが、可塑性を失いつつある有限な生体物質の変様として変奏される。目に映るものはすべて聞こえるものであり、耳に届くものはすべて見えるもの。
 イカの体はフラットではないし、乾いてもいない。グネグネしたウェットなモノモノしさを備えている。色素胞と筋の運動の軌跡とその可塑性が「映し出す」活きのよいサウンドは、グネグネしていてウェットだった。