アメリカニズムと「人種」

 読書、その他。マグロのステーキなど。

 

アメリカニズムと「人種」

アメリカニズムと「人種」

 瞠目すべき論集。この領域の最先端の成果がぎっしり詰まっている。南部=人種問題とか主人/奴隷の図式がそのまま白人/黒人のヒエラルキー構造と一致するという誤認識に文学者は各所で陥っているが、そういった短絡は本書には一切ない。主として本書は、アメリカのネイションとしてのあり方を理念的に形成する「アメリカニズム」と、それが本来は唾棄すべき負の副産物である「人種」との絡まりあいを追い続ける。奴隷制アボリショニズム、インディアン、移民、公民権運動、住宅、教育改革、異人種間結婚、スポーツ、多文化主義などが、「アメリカニズム」と「人種」という惑星の周りを衛星のように取り巻く。テーマもこれだけ幅広い上に、時代も奴隷制の展開期から21世紀の事件まで射程に収めている。しかし、決して論調が緩慢になったり、論旨に断絶が起きたりはしない。というのも、先行研究や一次資料への言及は当然としても、本書は本書に収められている他論文に対しても言及を繰り返すからだ。同書に収められた他論文の参照とそれによる継続的な立ち位置確認によって、本書は世間に数多とある論文集のなかで特異な位置を占める。編集者の大鉈によるハードな編集か、それとも共著者相互の輪読によるソフトな編集か。編集の過程まで本書は詳らかにはしないが、各論総論のみならず、その配置・接続にまで気を配った実に手の込んだ一作であることは疑うべくもない。いろんな意味で勉強になりました。