最後の喫煙者

 スモークサーモンが届く。私は業界の人間ではないので、あまりよこしまな贈り物を受け取りたくない。採択に際して、うちの嫁の気持ちが動くとは思えない。いいものはいい。だめなものはだめ。それだけのこと。もちろん、そんな書生論は脇において、当然がっつく。

 

最後の喫煙者―自選ドタバタ傑作集〈1〉 (新潮文庫)

最後の喫煙者―自選ドタバタ傑作集〈1〉 (新潮文庫)

 短編集。日常にぱっくり開いた巨大な裂傷に黒胡椒をすり込んでいくような超ブラックな傑作ぞろい。表題作に泣く(ウソ)。「老境のターザン」「こぶ天才」「問題外科」が特に素晴らしい。が、中身についてはさすがに自主規制する。秘笈入り決定。
 文体上の実験といえるのは、時間の流れが時間の経過と共に加速していく、SFもの「急流」のラストか。

二十世紀の最後の数年は、わずか数秒のうちに過ぎた。人びとはただ、あれよあれよというだけだった。
 1993   「あれよ」
 1994   「あれよ」
 1995   「あれよ」
 1996   「あれよ」
 [中略]
 そして二〇〇一年がやってきた。
 二〇〇一年から先に、時間はなかった。そこでは時間が滝になって、どうどうと流れ落ちていたのである。(作者傍白・そんなばかな)