臓器農場

 いまのところ、あまり動きのないトランスファー・シーズンになっているのは、レアルとマンUの間で戦われているロナウドをめぐる綱引きのせいか。ここまでこじれたら、もうファーガソンロナウドをレアルに出すしかないのではないか。サポーターの心は離れつつあるだろうし。といっても、レアルに行ったところでここ2シーズンと同じ活躍がサンチャゴ・ベルナベウで望めるかといえば疑問符がつく。犬猿の間柄にあるファン・ニステルロイがいるし、テベスルーニーのように驚異的な運動量でまわりを走り回ってスペースを創ってくれる選手もおそらくいない。それでも標準以上の活躍はするだろう。日本円にして140億あたりが攻防の分かれ目らしい。補強がポイントになるが、売り時だと思う。 

臓器農場 (新潮文庫)

臓器農場 (新潮文庫)

 臓器移植の倫理をめぐる長編医療サスペンス。
 ここまで長くする必然性はあまり感じないが、300頁を越えたあたりからおもしろくなる。
 事件の舞台は、ケーブルカーで貫かれた山の中腹にめり込むようにして立つ病院と、密かに無脳症児を飼育するcryptのようなスペース。謎解きの部分はもうひとつだが、公然の秘密となっている特別病棟の構造とその探索の過程がおもしろい。日常業務が行われている一般病棟の喧騒をよそに、四方をコンクリートで固められた狭い閉鎖空間で人知れず腐臭を放つ無脳症児。その黒ずんだ死体が露見する場面に、医療倫理の問題は集約されているということか。
 まるで隕石が落ちたかのように、木立の中突然開ける空間に雄雄しく立つ桜の古木。古木を囲んで行われた花見に始まり、古木を写した写真の裏に走り書きされた恋文に落着する、隠された悲恋物語も、あんまりべたべたすることなくすっきりしていてよい。
 ところで、主人公の看護士の容姿を「枯草色のポシェット」や「濃茶」で表現しているのは、山の風景に溶け込むような人物造型を目指したからなのか、それともたんに著者自身の嗜好にひきつけ過ぎたからなのか。つまり、オジンくさい感じがするということ。