ラットマン

 吹雪の山荘とはならず、昼過ぎには皓々と輝く雪景色も融けてなくなる。大量のおでんがオレを待っている。

ラットマン

ラットマン

 結成14年目を迎えるアマチュアロックバンドが閉鎖予定のスタジオで殺人事件に巻き込まれる。主人公のギタリストが小学校一年時に直面した姉の死の真相と絡み合って、事件は意外な展開をみせる。青春「本楽」ミステリ。
 人間と並べるとおっさんに見えて、動物と並べると鼠に見える「ラットマンの絵」、そしてある出来事を消化できず無意識のうちに別の物語へと置換してしまう「合理化」という心理学的用語が、物語の構造、事件の真相を読み解くヒントになるが、同時に誤読の穴への転落を誘う躓きの石ともなる。
 ロックバンドがエアロスミスコピーバンドだというのも仕掛けの一貫で、似ているもの同士の関係を考えるよう読者の注意を惹く。欲を言えば、心裡で繋がったもの同士がもっと有機的に、現実的に繋がっていくような展開があれば、もっと驚けたはず。
 ちなみに、冒頭と終盤に置かれたエレベーターの逸話は、ボーカル担当の竹内が自宅でテレビドラマか何かの音声をMTR(Multi Track Recorder)で録音し、いじったもの。ある意味、この物語全体がMTRの所産であるとすらいえる。
 1975年生まれの作者が、 "Toys in the attic" に言及し、"Love in the elevator" とつなげ、その接続した道を "Walk this way" で反復するというところに、なんとなく同世代の感性があるような気がする。
 作者自身、本格の文法を取り入れながら、それを新世代の感覚でいじっているのだろう。