山魔

 家を建てるとしたらどんな家がいいか、という妄想をたびたび嫁とぶつけ合う。費用無制限王様ルールである。日本庭園がいい、と嫁はいうので、あんなんどんだけ手入れしないといけないかわかってんの、と都合よく現実に戻ってまずは撃退する。そして、まあ吹き抜けの中に箱庭でも作る分にはいいんじゃないの、と妥協して、来るべき自分の主張を受け入れさせるための布石を打つ。満を持して、私の主張はこうだ。地下室がほしい。上を見たら切りがないから下を見ようよ、とか意味不明の交渉を仕掛けるも不発に終わる。窓の向こう、東を向いた嫁の目にはマンハッタンの摩天楼が映っているに違いない。遠いな。

山魔の如き嗤うもの (ミステリー・リーグ)

山魔の如き嗤うもの (ミステリー・リーグ)

 横溝正史テイスト怪奇推理。「やまんま」と読む。怪談のような伝承がまことしやかに語られる山村で起こる連続見立て殺人。怪奇譚蒐集家にして小説家の探偵が難解な推理に挑む。最後にどんでんがえしの連発。こういう世界観は好物。でも、キャラはもう少し作り込んでよかったのではないかと。でもまあ、連作ものなので、世界観さえしっかりしていれば、キャラは取替え可能でもいいのかもしれない。
 名前の読み方の難しい登場人物が多すぎて、これは誰だったっけ、という脳内体操を何度も繰り返す。これは人の名前をなかなか覚えられない私がいけないのだけど。
 できるだけ大きな謎をできるだけ小さな論理の箱に収めるのが本格作家の腕の見せ所だと思うが、この人がユニークなのは最後に箱を開けて謎を少しだけはみ出させたまま閉じるところか。そこはホラー作家の矜持か。
 ところで、一家鏖殺の際の犯人の格好は、『八つ墓村』に対するオマージュだと思う。
 枝葉末節ではあるが、「鑑みる」の誤用が目立つ。