ハードボイルド・エッグ

 今年はベトナムにしようかと話していたが、なんだかめんどくさいことになりそうなので、心のふるさと、沖縄に変更、ということで話はまとまった。が、沖縄こそ豚が主食といってもいいぐらい豚をよく食べる、という当たり前の事実に突き当たる。それでも帰るけどね。

ハードボイルド・エッグ (双葉文庫)

ハードボイルド・エッグ (双葉文庫)

 フィリップ・マーロウに心酔するある私立探偵の爆笑事件簿。久しぶりに読書で声を上げて笑った気がする。
 ハードボイルド探偵をきどって事務所を構えるが、イグアナに猫にイヌと、失踪した動物の捜索依頼ばかり。地面を這いずり回って泥をすすり、木に登って我にかえる。調子にのってウィスキーをラッパ飲みすると、すぐに胃がきりきりと痛み出し、当然の二日酔い。硬派を自任しながらその実美人と巨乳にはめっぽう弱い。美女のハートを鷲づかみにしても決して同衾しない、というマーロウの主義には面従腹背依頼人に手をつけるチャンスを窺う体たらく。名探偵には美人秘書、とたいした収入もないのに募集をかけるが、やってきたのは80がらみのしわくちゃばあさん。喧嘩には一度も勝ったことがない。けど、心根はやさしい。
 と、ハードボイルド調の文体で探偵の自虐的な日常が淡々と語られる。爆笑に次ぐ爆笑に少し疲れを感じはじめるころ、事件がおきて、一気にスピードアップ。行方不明の動物を捜索していた自称・ハードボイルド探偵としわくちゃばあさんが首を突っ込みすぎて、案の定窮地に陥る。
 事件の構成や解決には特にみるべきものはなく、驚きのトリックはない。もうすこし捻りがあれば(どこかに引っ越してしまったチビの飼い主は、絶対使えると思った)。けれど、ハードボイルドの文法に則った終盤のサスペンスはうまい。
 ところで、帯には「笑いと涙」のようなことが書いてあったが、感動の涙はどこで流すのだろう。はて。