プロヴァンスだと認める

 GWらしいことをしようかと2日前からあがき始めたが、当然、どこもかしこも満室だったので遠出は諦めて九州の北限なのに小生意気にもプロヴァンスと呼ばれている(自称している)若松へ初めて向かう。
 出発後30分にして、レンタカーがらみでかなりへこむ。車はへこんでいない。ホイールカバーに小指の先ほどのひびが入る。
 絆創膏ではごまかせないだろうし、銀色のマジックで塗っても、と蛆虫のようにうじうじしながら文豪の記念館と生家をめぐる。記念館はうじうじしていたのでよく覚えていない。文豪の生家で羽化、いや復活する。松本清張もそうだが、既成のnDK方式に乗らずに自由に建てた家には性格がよく出る。意味が詰まった家にいちいち感動する。そして自動音声ガイドみたいにつらつらとしゃべるおばさんの鼻が少し曲がっていてついつい見てしまう。
 ところで、その文豪の名前を嫁からは『野火』の「ヒノショウヘイ」と聞いていた。その組み合わせってどこかおかしくないかい、と訝りつつも行ってみたらやっぱり「火野葦平」だった。いや、やっぱりというか知らんわ。しかも帰宅後確認すると『野火』をものしたのは大岡昇平だった。ちいさな疑問はポケットにしまわずにおおきな声でぶつけるべきだ。火野正平はプレイボーイなのだ。『糞尿譚』、読んでおこう。
 それから漁港近くの料亭で昼食。通されたのは工事中の2階で、ときどき襖の向こう側から工具が働く音が響く。お詫びのしるしなのかどうかイワシの一夜干しをもらう。近年最高の刺身と接客だった。今度はバスで来る、と固く誓う。
 グリーンパークでカンガルーときどきロックワラビー、そんな中我関せず死んだように眠るウォンバット。腹の袋が痒そうだった。そしてロックワラビーの餌を貪る姿に盗み食いをする嫁のシルエットがぴったり重なって積年のもどかしさが腑に落ちた。適当な代名詞をついにみつけた。おい、ワラビー、とからかいながら楽しく帰るが、車を返すときにやっぱりへこむ。そうだった。
 帰宅後、たまたま点けた箱の中のダーティな中国のチームと、まともに試合をコントロールできない審判と、自分たちの置かれている状況を冷静に判断できない日本のチームにうんざりする。が、どんな一日だろうと焼酎は、やっぱり、変わらずうまい。