眼の虜、眼を覗く

――その眼にみちあふれていたものは、やさしい挨拶であり――柔らかな応答であり――つまりそれはものいう眼だったのです――と申してもそこらにある出来そこないの楽器の一番高い音みたいな、お粗末なキーキー声で会話する眼というのにも私はたくさんお目にかかりましたが、ああいう類とはまるでちがいます――いわば柔らかにささやく眼でした――ちょうど瀕死の聖者の、いよいよご臨終という時のような低い声音で、その眼はささやきました――(『トリストラム・シャンディ 下巻』 201-02)

 あるはずもないゴミを探すために女の眼を覗きこむ男。「見る」が「聴く」へとすりかわる。
 「黒点を探すガリレオ」のような真剣さで女の眼を覗く男は、自分に主導権があると思いこんでいる。リードしているのは男ではない。リードは男の首輪に繋がれている。
 舌鋒鋭い饒舌な語りに巻きとられる視覚は、次第に甘言に翻弄される耳へと落ち込んでいく。深淵としての眼。穴の底から囁く声に男はたちまち「落ちる」。
 触感、声、聴覚が視覚、眼を去勢する。モデルニテの目眩。