朝、珍しく呼び鈴の音がする。「どちらさまですか?」 こちらから問いかけてみても、むこうからの声がくぐもって聞こえない。乾燥機を稼働させているせいか、ドア一枚挟んでのコミュニケーションがいつものようにうまくいかない。
めんどくさがりながらドアを開けてみると、善意の笑顔が宙に咲いていた。手足も胴体もない笑顔は、こちらをみつめて漂っていた。根っこはきっとこの世にはないのだろう。
「ハルマゲドン、ご存知ですか?」「ええ」「聖書をお読みになられたことは?」「いえ、特に」・・・。
短文の遣りとりが雅を欠いた連歌のように続いて、わたしはおずおずとパンフレットをうけとり、根なしの笑顔は去って行った。
一日が始まったばかりなのに、この世の終わりについてしばし考える。あの笑顔は地球最期の日も咲いているだろうか。