パリ、敷閾、夢

パリ―都市の記憶を探る (ちくま新書)

パリ―都市の記憶を探る (ちくま新書)

 パリは、あらゆる解釈を受け入れつつ許容し、しかしひとつも残さず呑みこんでしまう。すべては永遠に敷閾に留まり、敷閾それ自体になってしまう。エーコはいう、謎のないものは解釈を呼ばないし、傑作にはならない、と。まるでメエルストロムのようなパリは、傑作となるべく解釈を誘発してやまない。やがてパリは、「19世紀の首都」と呼ばれるようになった。
 本書はベンヤミン的、あるいは後期バルト的斜視を、観光都市パリへと向ける。
 扱われるのは橋、壁、門、塔、街路、広場、地下、駅、墓地、といったトポスたち。
 それぞれの章と場所は、本とパリを裁断する切れ目のように働く。パリの街を解剖学的にばらしていくと、ひとつひとつの器官を包む膜に突きあたる。ぬめりの不快、包まれることの快が頁を繰る手に広がっていく。
 パリという都市は、人が住む街というだけではなく、人の住めない神話でもあるのだろう。
 出発前に急いで少しだけ付け焼刃。