勇次郎が認めたのなら無茶苦茶強いはずなのだが

 もろもろ。弁当。東の空に向かって拝む。
 内藤対亀田次男。素人なりに感想を。範馬勇次郎が入場コール。プロレス的演出だなあ、と。しかし、ボクシングでこれほどベビーフェイスvsヒールの図式がはっきりしているわかりやすい試合もないのではないか。亀田一家という存在は、やはり(演出の上では)凄いなあ、と改めて思った次第でございます。
 試合の方は、内藤がやはりかなりのプレッシャーを感じていたせいか、慎重な立ち上がり。対して亀田次男はいつものようにガードを固めて直線的に前に出る。内藤がやや変則的な左右のフックと左右のボディを打ち分け、ポイントを稼いでいく。亀田は打たれながら前に出て、ロープに詰めて打ち合う予定だったのだろう。が、それしかパターンがないので、あっさりクリンチで凌がれる。ラウンドが進むごとにリズム感を増していく内藤と、ボディが効いたか手数で圧倒されたまま前に出てはクリンチでかわされる亀田。終盤の内藤はポイント差を意識したか、距離を確認しながら安全運転。亀田は相変わらず前に出るだけで手が出せない。破れかぶれのラフファイトで死中に活をみいださんと、亀田はタックルからフロントスープレックスへと移行しようとするも、レフェリーに止められ、減点を受ける。そのまま亀田、何もできず、ゴング。判定は当然内藤。10ポイント差ぐらいはあっただろうか。
 多分、亀田のプランでは、前半ひたすら圧力をかけ続け、内藤のスタミナを奪い、古傷の瞼が切れるのを待つというものだったのではないか、と想像する。そうではないにしても、前に出るしか選択肢はなかったはずだ。が、あれだけパンチが出せないボクサーに何ができよう。引き出しがなさすぎる。カウンター狙いはミエミエで、変則的な内藤のスタイルを向こうに回して、あのテクニックではまず当たらない。内藤の方は、まずプレッシャーと調整不足があったのではないかと、想像する。なんだかぎこちない。けれども、パンチスピードの変化と角度の多彩さはやはり凄い。特に中盤は面白いようにヒットしていた。
 凡戦だったのは、亀田の実力不足とあの前に出るだけの不器用なスタイルが原因ではないかと思う。クリンチばかりでろくに打ち合えない。なんというか、世界戦に出るようなレベルではなかったということ。けれども、気持ちの強さは評価したい。あれだけの四面楚歌の状況で「負けたら腹を切る」なんていう退路を断つような発言をして、褒められたものではないけど、ラフファイトをしてまで勝ちに執着した。彼なりに強い思い入れがあったのだろう。そこは汲んでやりたい。ま、もちろん気持ちの強さだけで勝てるほど、プロの世界は甘くないのだろうけど。
 内藤はいいボクサーだと思う。けれども、カリスマ性はまるで感じない。亀田の存在がなかったら、これだけ注目を浴びることもなかったということは忘れてはならないと思う。試合後もまるで対戦相手と健闘を讃えあうそぶりを見せない亀田家を批判することは容易い。けれども、彼らだけがほとんど例外的に地上波で放映される権利を持っているという冷厳な事実は曲げることはできない。ボクシングも興行である以上、消費される対象だ。強さももちろんのこと、やはり耳目を集める演出は欠かせない。亀田のパフォーマンスの是非は問われてしかるべきだと思う。しかし、それでもプロレス的演出でしっかり役を演じている彼らがボクシング界最高のコンテンツであることは否定できない。ストイックさに良さがあることも認める。けれども、それだけではボクシングはこのまま衰退していくだろう。あの演出がダメなのであれば、どのような演出がありえるのか。ボクシングのセンスはさておき、亀田の演出に対する対案は今のところないのではないか。