接木

 さすがミラン。準備万端。個の力、チームとしての組織の力、判断の速度と基本的な技術の確度の歴然たる違いとともに、個人技や組織力に帰すにはあまりにも巨大なリーグのレベル差を痛感した*1。個人やチームの力を培う土壌の肥沃度の格差は、いかんともし難い。私の見立ては杜撰に過ぎた、とここに陳謝する。
しかしそれでも、浦和は善戦した、と恥の上塗りをしてみる。高い位置でショートカウンターを受けないよう、リスク管理を徹底的にやることで、ミランの長所を消す消極的な展開に持ち込むことができた。戦術の工夫次第で、十分に戦える。勝敗を分けたのは、飛び道具の差。何度もボールを失っていた判断の遅い長谷部*2ではなく、ポンテがトップ下にいたら、結果として負けたとしてもミランに一泡ぐらいふかすこともできたかもしれない。もしもの話はやめよう。
 阿部や鈴木、そして両翼を吸収し5バックぎみに構えたDF陣は、よく耐えた。浦和の周到な戦術が、ミランを上回っていたとはもちろんいえないが、少なくとも戦術に根を張る浦和の粘りはミランの予想以上だったはずである。子供っぽく正面からやりあうのではなく、勝負に徹した浦和の成熟した姿勢は賞賛に値する。一発勝負ならば、戦術次第で通用するかもしれない。褒めすぎだろうか。
 ただし、ジャイアント・キリング成功の如何は、短観を超えた長期的俯瞰に堪えうる実力の醸成と賦活によって、どれだけ彼我の差を埋めることが出来るかにかかっている*3。当然ながら、浦和は甘言よりも諫言に耳を傾けなければならない。けれども、まだ世界の舞台に立つのは初めてのこと。「巧遅は拙速に如かず」という金言もあれど、ここは「急がば回れ」。急いては事を仕損じる。花を咲かすだけなら促成栽培でもできる。でも、せっかく咲く花ならば美しく咲いて欲しい。
 リベルタドーレス杯に次ぐ南米のカップ戦、その名も「南米カップ」の王者とナビスコカップの王者が覇を競う大会が、来年から4年間開催されると聞く。もっと大きなニュースになるべきニュースだと思う。世界レベルと対峙する真剣勝負の場をどれだけJリーグに接木することが出来るか。きっと花は枝が多い方が美しく映える。枝にも花は咲くかもしれない。どんな花が咲くか。花が咲く日を楽しみに待ちたい。

*1:象徴的だったのは、前半ミラン陣内で前を向いた長谷部が、後ろから猛ダッシュでやってきたガットゥーゾに無抵抗のままボールを奪取された場面。

*2:セリエAではたぶん通用しない。

*3:チャンピオンズリーグ・グループリーグに当てはめるならば、浦和は、ほとんど勝ち点を上げられず、無抵抗のまま姿を消すようなレベルのチームより若干上ではないかと感じる。組み合わせに恵まれれば、UEFAカップ出場権を得るところまではいけるかもしれない。