ダミー

 マンUvsエヴァートン

 司令塔・アルテタ不在とはいえ、しばらく負けのないエヴァートンは、その好調ぶりをいかんなく発揮し、激しい削り合いへとマンUを引き摺り込む。対するマンUは、ボール保持率で大きくリードをとるも、エヴァートンDF陣の身を挺したディフェンスの前になかなか活路を見出せない。しかし、そこはタレント揃いのマンU。PA付近右寄りでおもむろにキックフェイントを入れながら機を窺うロナウドエヴァートンDFが一瞬目を放した隙に、人垣の僅かな隙間目掛けてロナウドの左足一閃、たちまちボールは空を滑走し、ゴールの左隅上部へと収まった。エヴァートンも黙ってはいない。即座に左サイドからのシンプルなクロスに反応したケーヒルが、リオ不在で高さ不足のマンUDF陣の上空からヘディングを叩き込む。ここから気温3度の冬空を瞬間沸騰させたフィールド上の熱気も、次第に選手の内に篭もるようになり、「熱腸冷眼」の様相を呈する。積極的に選手交代を繰り返し、前線の活性化を目論むマンUを、エヴァートンは亀のように丸くなりながらやりすごし、ひとつひとつの案件を丁寧に冷静にこなしていく。年内首位の目標を掲げるファーガソンの期待に応えられないまま、熱気を放散する発汗が次第に冷や汗に変わり、時間だけが過ぎていく。しかし、強いチームは勘所を逃さない。冷汗三斗、じれにじれたサポーターの願は、終了間際88分、PA内で突進するギグスをピナールが引っ掛けた瞬間、晴れて満願成就となる。ハワードをあざ笑うかのようにフェイントで揺さぶったロナウドが右隅に決め、エヴァートン万事休す。
 願わくば、もう少し今季加入のヤクブを活かした攻撃的なエヴァートンを見たかったが、これはこれで好ゲーム。アーセナルに続き、マンUも星を拾った。リヴァプールチェルシーもこれを追撃、わずかな勝ち点差にビッグ4がひしめく激戦になった。
 それはそうと、実況の金子さんがおもしろい。結構なおじいさんなのだが、そのスローな感じと時折首を傾げたくなる言葉遣いに魅了されている。最たる例証が「ダミー」。「あ、あそこは直接行くんじゃなくて、一枚ダミーを入れといたほうがよかったですね」、というように使う。ついつい「案山子」を想像してしまう*1。あ、それから「チェルシー」とかの「シー」が「スィー」になったりするか思いきや、「ツートンカラー」はそのままだったり。突っ込みどころ満載で、このお方が実況を勤めると、なにやらサッカー中継が楽しく見れそうな気がする。
 最近の試みとしては、観戦しながらロナウドの心の声実況を勝手にやったり。「あ、オレ今超かっこいい」とか「オレだったら、もっとかっこよくなるのに」とか「まだまだオレの方がかっこいいな」とか。要は彼の中のナルシスに声を与えるのが、最近の密やかなれどラディカルな愉しみ。

*1:もちろん、「囮」ぐらいの意味だろう。