招かれざる客

 結局、ストレスの圧力に負けてスモーカーに逆戻り。本数は少なめに。ご利用は計画的に。
 
 研究に直結しない仕事をしながら、細切れの時間をさらに細切れにして研究をしなければならない嫁にとってみれば、のほほんと書かれた研究に関わる内容が癪に障るらしい。まあそうだろうと思う。基本的には自分が考えたこととか思ったことをただメモするために(あるいはストレス発散のために)書き始めたものだったので、その延長線上に少しでもおもしろいと思う人がいればなおよし、ぐらいで考えていた。けどまああんまり嫁を刺激するのも本意ではないので、ここには当たり障りのないおもしろ日記を書いたほうがいいような気もしてきた。まあ、大真面目な話は自分だけが読める閉じたところに書けばいいだけのことなので。とかいいながら、むだに長いなあ、今日のエントリー。と嫁を挑発してみる。どや。

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 お茶大COEの集大成シリーズ本。他に4冊あるようだが、中身がよくわからなかったので、とりあえずこれを買ってみた。各論文のほかに、バトラー、スピヴァク、コプチェクの講演・クローズドセッションの模様が収められている。

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 67年。スカパーにて。原題 "Guess who's coming to dinner"。いい邦題。この「ディナー」は、もちろんキング牧師のあの演説を示唆している。
 いきなり見知らぬ男を連れてきた娘に結婚の承認を迫られた老夫婦がどう立ち回るか、という普遍的な物語の根幹に、人種間結婚というたいへん重いテーマを組み込んだ映画。世間知らずのお馬鹿な天然娘ジョーイ(キャサリン・ホートン)と「才能ある10分の1」(デュボイス)を具現化した秀才黒人医師ジョン(シドニー・ポワチエ)のコンビもよいが、言葉の上では丁寧に賛意を示しつつも表情や仕草で戸惑いや複雑な感情の揺れ動きを表現しなければならないドレイトン夫妻を演じるスペンサー・トレーシーとキャサリン・ヘプバーンのコンビはまあすごい。特にトレーシーはなんでもクランクアップの数日後に亡くなったようで、文字通りの遺作。最後の大演説は胸を打つ。
 道徳的に素晴らしい、今なら「政治的に正しい」と呼ばれてしかるべき牧師さんや、『風と共に去りぬ』のマミー像を継承し、白人と同等を目指す黒人を罵倒する乳母がいいアクセントになっている。前者は人類皆平等といった型どおりの "beautiful thoughts" を並べ、後者はそれとは反対に黒人は劣等というお決まりの人種構造を再生産してみせる。こういうふたつの両極端な型を離れて、自分たちの頭で自分たちの問題について真摯に考えるというのが大きなテーマとなっている。牧師と乳母を広間に残して、双方の両親を含めた6人がそれぞれペアになって、入れ替わり部屋を移動し、対話を続けるという形式がそれを裏書しているような気がする。黒人夫婦と白人夫婦はまったくの対になっていて、夫同士は反対、妻同士は賛成、しかもその理由は同じだったりする。このへんが、具体的な事例から抽象的な問題を浮かび上がらせる手法としておもしろいところなのではないか。
 人種の問題は、白人がうんぬんとか黒人がうんぬん以前に、結局ありきたりの鋳型に感情を流し込んで、金太郎飴的な思考様式を再生産していく、その「工程」のまずさに凝縮されているということになるのだろうか。
 まあいずれにしろ、人種間結婚というのはアメリカにおいてほとんどアンタッチャブルな部分なので、苦心惨憺、批判をかわそうとする仕掛けが見られる。人種間結婚の引き金になるのが、よくものごとがわかっていないおばかな白人娘という設定とか。さんざんジョンを罵倒する黒人マミーが、多くの白人の観客の本音を代弁する安全弁として機能していたり。全員で食卓に着席し、ディナーを始める最終場面は、キング牧師の演説を具現化したものだろう。散々右往左往した挙句、「愛」とかキング牧師の夢といった普遍的で誰も反対できないような理想的な形象に頼るあたりは、時代の限界なのかもしれない。もっともドレイトン氏の演説が素晴らしいので、全部納得する。けど、途中、ドレイトン氏がぼそっとつぶやく、あいつはbadじゃないんだけどwrongなんだよなあ、というような微妙な言い回しが、個人的にはもっともリアルに響く。
 ジョンの父が郵便配達人という設定なので階級問題まで踏み込んでくるかと思ったが、世代間のギャップまで。けれど、旧世代とポスト公民権運動期の世代とのギャップを端的に要約しているのでおもしろい。あるいは階級問題を世代間の軋轢として表象していると考えた方がいいのか。郵便配達の業務がアレゴリカルに用いられているところもははーん。
 あとは、女性の役割がやはり全体的に軽いなあ、という印象。キャサリン・ヘプバーンに存在感はあるけども。古典的フェミニストは怒るんじゃないだろうかねえ、これ観て。