さまよう刃

 暑い。人間性を根こそぎぶっこ抜くかのような暑さ。
 惣菜コーナーにて。テレビに語りかけるような気軽さで「高えな」と呟いたところ、裏でがさごそ聞こえていた音がぱたりとやむ。割引シール貼ってけろ。

さまよう刃 (角川文庫)

さまよう刃 (角川文庫)

 連続レイプ魔に娘を殺された男の復讐劇。硬派な社会派サスペンス。少年法や被害者サイドのプライバシーの問題に焦点を当てている。被害者の父が静かに滾らせる応報感情と犯行の片棒を担いだ少年の身勝手な防衛本能、そして一寸先も見渡せない幼稚な加害少年のエゴ、といった感情の綾織を追っていくと、もうひとつの隠れた感情の刃が捜査網の釁隙から飛び出してくる。感情を劇化する手際が見事。
 少年法に保護された少年たちは徹頭徹尾幼稚な存在として描かれるが、瑕疵を妥協で塗り固めた法の中で生きる大人たちも所詮ネオテニーにすぎないといえるのかもしれない。この場合、子供と大人は子と親の関係、というより、図と地の関係にある。
 法が理性的だからといって、そこに生きる人間が理性的なわけではない。理性的だからといって正しいともいいきれない。倫理の領域だろう。