太宰も清張も百歳

 今年は太宰治松本清張が生誕百年。ふたりが同い年なんて知らなかった。考えてみれば早熟型と晩成型なので、活躍した時期は全然被っていない。清張なんて書き始めたのは40代からだし。「大極宮」がやってくるなどこちらの清張祭りはそれなりに盛大に行われるようだが、あちらの太宰も映画化の話が上っているらしく負けてはいないようで。そういえば今年はポォの生誕200年だったりもする。

死体を買う男 (講談社文庫)

死体を買う男 (講談社文庫)

ROMMY (講談社文庫)

ROMMY (講談社文庫)

 『Rommy』は、レコーディングスタジオで起こったカリスマミュージシャン殺人事件の話で、これはもう正統派の本格。嫁との推理合戦は、小さなところで勝ったものの大きなところで負ける。RommyがRommyを殺すとか、実はこいつは幼馴染と入れ替わっていたのでは、とか、余計なことを考えているうちに、肝心なところで自らをミスディレクトしてしまった模様。
 『死体を買う男』は、江戸川乱歩と荻原朔太郎がコンビを組んで崖から身投げした青年の行方を追う、というスジの作中作を読んで驚く老年作家の話。オチが3つくらいある。読みきった、と思っていたら、最後にもうひとつ揺り戻しがやってきて、膝から崩れ落ちる。足が揃ってしまっては、変則ドリブラーの奇想についていけない。反省。
 私は飽きっぽい人間で、特に文体にすぐ飽きてしまうので、作家固有の文体なるものを駆使されて連作でも書かれようものなら、ひと月ぐらいの冷却期間をおかないと次が読めない。しかし、歌野はその点、毎回違う文体で毎回違う世界観に挑戦してくれるのでさくさく次のが読める。『死体を買う男』にしても乱歩調の文体に挑戦していたり。あと、ちゃんとヒントを忍ばせてくれるフェアなところもいい。