煙か土か食い物

 昨晩、飛行機3つとバスを2つ、タクシーを2つ乗り継いで帰宅。
 ヒースローから乗り継いで成田に向かう飛行機。語学学校帰り(後に会話から判明)の日本人女子学生がひとり、俺たちの前の席に座る。素朴な化粧で、遊びに行っていたわけではなさそうだ。その隣に、日本で英語教師を志望している(後に会話から判明)インド系と思しき男性がやってくる。
 「ハロー」「ヘロー」。
 悪夢はいつだって何気ない挨拶から始まる。
 離陸前から女子学生はこの男性に首ったけ。愛してないくせに首ったけ。ズーズー弁みたいな印栗鼠で話しかけること話しかけること都合6時間日本野鳥の会調べ。いやいいんだよ、話すだけだったらよ。でも、「日本人とこうしてめぐり合えてハッピーだ」という男性に向かって「私も英語をこんなに話せてハッピーだ」と意趣返しを微笑み返しだと勘違いしたまま無神経に放る女の針金のような無神経な神経が俺たちの神経を針金のむしろにしちまうんだよ。何でもいいからボタンを押したくなる、そんな気分だよ。ヤ・サナバビッチ、ゲッザファックアウト。
 着陸の直前には、私の手鏡がない、とか今更いいはじめて客室乗務員まで巻き込んで上へ下への大騒ぎをした挙句、男性がポーズとはいえ心配した素振りをみせると「まあ安いからいいわ」とかいうことでなかったことにしようとするお前を燃やしたい。誰かオレを殺してくれ。こいつを殺せないオレを殺してくれ。 
 英語がしゃべれるだけが取り柄の頭空っぽ人間製造ラインはこうなっているのだろう。
 なんか英語ってオシャレじゃん→英語が勉強したい→海外の語学学校で研修→(たぶん)打ちのめされるが気づかない→帰るときには帰国子女気分→となりの外国人と盛り上がっていると勘違いする→私は他の日本人とは違うのよと勘違いする→なんでもどこでも英語をしゃべりまくって白眼視される→周囲から浮くが気づかない→日本ってダメね、と自分のことには気づかない→本格的に留学→向こうでもうざがられるが気づかない→続く。
 まあ人間なんて所詮、煙か土か食い物なんだけどね。それにしても「どんべえ」はうまい。
 

煙か土か食い物 (講談社文庫)

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