儚い羊たちの祝宴

 花粉その他の影響で眼がしんどい。ばたばた準備。
 
 

儚い羊たちの祝宴

儚い羊たちの祝宴

 素封家の子女たちが集う読書サークル「バベルの会」をめぐる連作短編。どことなくゴシック的なムードが漂い、文体や言葉遣い、漢語の多用がドラマを盛り上げる。
 次々と身内の不幸に見舞われる丹山家の秘密「身内に不幸がありまして」。離れに幽閉された六綱家の長兄が最期を迎える前に仕上げた絵の秘密「北の館の罪人」。山荘の管理を仰せつかったメイドと雪山の遭難者「山荘秘聞」。大奥に全ての権力が集中する閨閥支配と使用人の献身「玉野五十鈴の誉れ」。大寺家の料理人とアミルスタン羊の謎「儚い羊たちの晩餐」。
 「最後の一撃」の衝撃度をさかんに喧伝する帯の惹句がハードルを棒高跳びほどの高さまで上げてしまっているので、ある程度読む側が事前に身構えてしまうのはしょうがない。ひっくり返るほどの衝撃はないとしても、どれも完成度の高い逸品ぞろい。読書サークル「バベルの会」が各短編を繋ぐ結び目の役割を果たすというだけではなく、多くの場合、先行する様々な小説が酵母菌となって雰囲気の醸成、謎の発酵を手助けしている。特にメインディッシュのアミルスタン羊は、スタンリィ・エリン「特別料理」へのオマージュの表現であると同時に、『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』=『ブレードランナー』をも照射する、含蓄豊かな記号としてうまく料理されている。
 『インシテミル』はできが悪かったのか、自分の趣味にあわなかったのかよくわからないが、これはかなり高レベルのミステリで満足。