バルセロナ・文化篇

 アパート。バスタブがなかったのは残念だったが、それ以外はほぼ問題なし。空調が故障していたようで、到着の翌日、ほぼまる一日かけておっちゃんが大掛かりな修繕をしてくれたがあまり効果なし。ちなみにこの部屋のオーナーは察するにエスパニョールサポーターのようで(嫁は気にならなかったらしいが)、バルサの話を切り出すと目の奥に殺意が過ぎり、若干口調に淀みが見られた。きらーん。これが「モルボ」か。と勝手に妄想する。

 
 世界三大聖堂のひとつ、サグラダ・ファミリア、生誕のファサ―ドを見上げる。中に入ると、11ユーロ。しかし殆ど工事中でつまらない。建築費の寄付だと思うことにする。工房に外尾さんの姿は見えず。

 
 バルセロナ市街地から電車で約一時間、ぎゅうぎゅう詰めのロープウェイからの眺望絶佳に戦慄を覚えながら10分ほど耐え抜き(高所恐怖症なのです)霊峰モンセラットに降り立つ。カタルーニャ人たちがフランコ独裁政権下にあっても独自の文化を保持し、抵抗を続けることができたのは、ここが求心力を発揮していたから。カタルーニャ語が禁止される時代でも、ここではカタルーニャ語で礼拝が行われていたという。ご本尊は黒マリアだが、ここにあるのは複製で、本物はカテドラルにある。ちなみにバルサのホームスタジアム、カン・ノウの内部にも黒マリアを祭った礼拝所が設けられている。バジリカでほぼ毎日定刻に行われる賛美歌合唱は、厳密にルーティン化していて、さくっと2曲歌い終わったら挨拶役の生徒を残してつつがなく退場していく。今回の旅で唯一猫を見たのがここ。市内は犬だらけ、うんこだらけ。


 サンパウ病院。ドメネク作。芸術は人を癒す効果があるということでこんな病院が作られたらしい。写真は正面入り口で、この裏に広がる広大な敷地に同じような建物がずらずらっと並んでいる。一部は現在も病院として機能している。


 右がディアゴナル通り(だったと思う)。バルセロナ市内の交通はおおむね一方通行だが、こういう大通りは例外。真ん中は遊歩道になっていて、じいさんだろうがばあさんだろうが杖をついていようが容赦なく散歩する。こちらの人はよく歩く。杖をついてでもカム・ノウに通ってピッチを睥睨する。そして右手にビニール袋を持っているくせに、飼い犬のうんこは拾わない。


 カサ・ミラとカサ・パトリョ。前者が山、後者は海を表現しているとのこと。カサ・パトリョの方が面白いと勝手に思う。宮崎駿、真似したな。中も見学できるらしいが、行列が凄い。そしてずいぶん法外な見物料をとる。外から見ただけ。


 ピカソの壁画。どうみても落書きにしか見えない。グラフィティアートと何が違うのか。  


 生き馬の目を抜く目抜き通り、ランブラス通り。ときどき懐も抜かれるらしい。2回ほど「ケイドロ」ごっこが繰り広げられているところに出くわした。バイクで追っかけるポリシアは本気で追わないのでなかなか御用とはならない。写真中央はローマにもフィレンツェにもいた銅像と化したパフォーマー。ここの「銅像」はおひねりを入れても動かない。

 
 旧市街を抜け、海沿いのバルセロネータ地区。左手にはバルセロナオリンピックのメインスタジアムのあるモンジュイックの丘、右手には散歩コースが続く。水族館や「アイマックス」と呼ばれる直径ウン十メートルの3Dシアターがあったり。バルサのスタジアムツアーでもたいして面白くもない3D映像を見せられるが、こちらでは流行っているのだろうか。写真のオベリスクのようなものは、コロンブスの塔。新大陸の方角を眼差している。


 カタルーニャ音楽堂ドメネクの最高傑作。中を見るには予約が必要。ということで素通り。


 サンタ・マリア・ダル・マル教会。陸と海とを隔てる閾としての機能を担っている。ステンドグラスを多用しているところが、太陽の国らしい。バルセロナ文化施設は、お金をとる区画には英語のガイドがあるが、ただの区画では現地の言葉オンリー。 

 
 カテドラル所蔵、モンセラットの黒マリア。黒い。


 カテドラル前の広場でサルダーナ。日曜日にはこうして同好会の方々が盆踊りのタップダンス版のような踊りを舞う。というか地団太踏む。カリブや南アメリカ大陸を対象とするポストコロニアル研究が明らかにしているように、ダンスと抵抗は親和性が高いが、サルダーナも例に漏れず、フランコ政権に対する抵抗の表現として受け継がれている。ただ抵抗といっても、カタルーニャ人はバスク人のようにテロを謀ったりするような暴力とは無縁で、極めて平和的に連帯を育む。なのでカポエラのようなダンス(?)ではなく、こうしてご年配の方々も楽しむことができる。ワッペンを買えば飛び入りできるらしいが、さすがに敷居が高い。

 その他、いくつか回ったが、大きな進歩は諦めが早くなったこと。欲張ると後々響く。今回はバルサ観戦が主目的だったので、ガウディ関係もかなりの数を見送った。それでも結構歩いた方だと思う。

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 バスや地下鉄はどこまでいっても1.3ユーロ均一。が、地下鉄は空調があるのかないのかという感じで、息苦しい。バスは路線が複雑そうなので今回は使わなかった。タクシーもべらぼうに安いので、困ったときはタクシー。

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 ワインがべらぼうに安い。水より安い。一本1ユーロぐらい。しかもそこそこ旨かったり。レストランのコースにワインかビールかと書いてあって、ワインを頼んだら一本丸ごと出て来たときの衝撃は筆舌に尽くしがたい。

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 メルカートで買い物して自炊してみたが、物価は驚くほど安い。トマト1キロ3ユーロ弱とか。対面販売システムで、売り子さんを捕まえて、欲しいものと数量を告げるシステム。日本人的作法に則って並んで待っていると永遠に順番は回ってこない。魚や肉はお好みに合わせて切り分けてくれるが、言葉の壁のため、そんな細かい注文はもちろんできない。注文を終えると会計のレシートを渡されるのだが、カタルーニャ人はここで必ずもめる。よくわからないが、たくさん注文しているうちに計算間違いが起こることを危惧してのことだと思う。いや、やっぱりマリーシアだな。

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 パエージャはちょっとまともな店(といってもワインつきのコースで2人で30ユーロくらい)で食べてみた。旨い。どう考えてもこの味は出せない。要研究。そしてウサギめちゃ旨い。どーれ、今度ペットショップで調達してみようか。

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 中日あたりで洋食に挫折してアパートの斜向かいにあった「米米」という名前の怪しい日本料理屋に駆け込んだが、店主も店員も中国人。豆腐を切って醤油と味噌をぶっかけた豆腐サラダとレトルトの味噌汁、シャリがおかゆみたいなかっぱ巻きまでは仏の顔で許す。が、魚を食らう気満々で注文した「海鮮丼」の代わりに出てきたのは明らかに親子丼。冷凍シーフードにたまねぎと卵を混ぜ合わせて醤油をぶっかける、という荒業。まわりに客がひとりもいない理由がよくわかった。というか誰も客がいない店に入るのはもうやめよう。これで30ユーロとる、というずうずうしさに頭がくらくらした。お盆の隅に「おいしい!」と書いてあるのを見つけて全部忘れることにした。つーか、中華料理作れよお前ら。次からはレトルトの味噌汁と「どんべえ」の類を持っていこう、というのが、今回の旅行、最大の教訓。