ポアンカレ

 もろもろ。煮物。
 NHKでポアンカレ予想をめぐるお話を見た。ポアンカレは、ニュートン以来幾何学が王様だった数学の世界にトポロジーを持ち込んで一躍有名になった人。
 ポアンカレ予想の内容を理解するにはかなり専門的な知識がいるそうだが、かなりわかりやすくすると、地球からロープをつけたロケットを飛ばし、そのロケットが宇宙をぐるりと回って帰ってきたとき、ちゃんとロープを回収できたら宇宙は丸いということになる、というもの。ロープが縺れてこんがらかって回収できなくなってしまったら、宇宙は丸くない、ということになる。
 誰も解けないポアンカレ予想に、サーストンという数学者が角度を変えて迫る。サーストンは、丸いかどうかはわからないけども、丸くないのだとしたら、どんな形がありうるのか、というふうに問題設定をずらした。結果、サーストンは宇宙がどんな形なのかわからないが、ありえる形は8つだけで、この8つの組み合わせから宇宙は成り立っているはずだ、と仮説を立てた(幾何化予想)。
 以後も様々な天才数学者たちがポアンカレ予想に挑み続けたが、誰も正しい証明にたどり着くことができない。そこへ現れたのが、ロシアの数学者ペレリマン。アメリカに留学したペレリマンは、専門の幾何学の世界で頭角を顕わしていくうちに、トポロジーの難問・ポアンカレ予想に出会う。その後ロシアに帰国。2003年、学術雑誌ではなくネット上にポアンカレ予想を証明する論文を発表。次第に注目を集め、プリンストンで論文の説明をするために招かれるが、誰もその証明を理解できなかったという。というのも、ペレリマンによる証明は、トポロジーの理論によるものではなく、幾何学や物理学を応用したため。2006年には、検証の結果、ペレリマンによる証明が正しいことが明らかになった。ポアンカレ予想と幾何化予想のどちらともが、これで証明されたことになる。
 だが、人類最大の謎のひとつを解決した代償は甚大なものだった。ペレリマンは、2005年に職を辞し、人目を避け、母親の年金で暮らしているという。あまりにも高次の世界に入りすぎて、3次元に帰って来れなくなったということなのか。数学界のノーベル賞フィールズ賞」を辞退、クレイ数学研究所の指定する「ミレニアム懸賞問題」を解いたことに対する褒賞金100万ドルの授与も固辞する方針だという。まあ、「単連結な3次元閉多様体は3次元球面S3に同相である」というポアンカレ予想自体が全く理解できない私は、ひたすら押し黙るのみである。口を挟めることといえば、せいぜい番組を見た後、風呂でこいた放屁が「ポアンカレ」と響いたことぐらい。