Cahiers

 速さの哲学

しかし私はこれこそこの世の中で、快速に旅をする最上の方策だと信じます。苦虫をかみつぶした気持ちでいれば、何ものもあまりこちらに好意を持つようには映りません。――つまり引きとめるものがほとんどあるいは全然ないのです。(『トリストラム・シャンデ…

 運動と停滞

ところで私は(たいへんやせっぽちですから)意見がちがうので、大いに動き続けていることはそれだけ生きがいのあること、それだけよろこびを感ずることであり、――じっとしていること、あるいはノロノロと進むことは、つまり死であり地獄に落ちることだと思…

 読者のための空白

このことを正しく認識していただくために――どうぞペンとインクをとりよせて下さい――紙はお手もとに用意してあります。――そこでどうぞお席におつきになって、この女性の姿をお心のままに描いてみて下さい――できるだけあなたの恋人に似せてでも――奥さんにはあ…

 速度の近代

ところで、満腹で書いている時の私は、――生あるかぎり断食の状態でものを書くなどということはもう二度とあるまいという気持でペンを走らせるのです。――言いかえれば、この世の心配苦労もあらゆる恐怖も、すべて忘れて書くのです。――身に持っている傷跡の数…

 抹消による自己批評

――しかし人間だれしも欠点は持っているもの! しかもこの場合ヨリックの欠点をさらにいちだんと小さなものにし、ほとんど拭い去ってしまっている一事というのは、問題の一句はすこしのちになって(ということはインクの色合いがほんのちょっとちがうのでわか…

 探偵の洞察

人間には自分も気づかぬ無数の穴があって、とさらに父は続けて、するどい眼力の者ならその穴からたちまちその人の魂を見透すことができる。――だから分別のあるほどの人なら、部屋に入ってきた時に帽子をぬいで下におくにも、――あるいはまた出ていく時に帽子…

 完璧のための横紙破り

――その通りです、旦那――たしかにここの所にまるまる一章抜けています――そしてそのためにこの書物にできた十ページの穴は、――が製本屋は阿呆でも悪党でも頓馬でもありません――それにこの書物の不完全さが(すくなくともこのことのために)すこしでもふえてい…

 章についての章

――幕を引くんだ、シャンディ!――はい、引きました――ここんところで紙の上に線を一本引くんだ、トリストラム!――はい、それも引きました――そこでほら、新しい章というわけです!(『トリストラム・シャンディ 中』 71) 作品を区切ること。パンクチュエイション…

 ズンボ『死の劇場』の影響、ヴァニタス、トランジ

サドの『悪徳の栄え』『ソドム120日』。ゴンクール兄弟。メルヴィルとホーソンの美学が離反する分水嶺。「モラリストなり」。(『猟奇博物館へようこそ』 67-72)

 犯罪、あるいは『批評的差異』への/からの跳躍

犯罪とは、内面から外部へ移すこと、明るみに出すこと、はては清算することにある。 というのも、犯罪はそれまでたくさんある可能性のひとつ、けっきょくのところひとつの夢だったのだ。 犯罪者というのは、事実しか勘定できず、存在しないものはゼロと見な…

 耳鳴りと目眩

2・7 Judas Priest:フェアウェル・ツアー@福岡サンパレス タンクトップから伸びた二の腕が弱腰な宙を痙攣的に強請る。教頭先生の頭さえ微かに上下している。スキンヘッドに巻きついたタオルが少しずつほどけていく。 頤が激しく震える。帽子の隙間から汗…

 知識人の危機(了)

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 蠅と人間の会話

「――さっさと飛んで行くがよい――おれがおまえを傷つける必要がどこにあるだろう? この世の中にはおまえとおれを両方入れるだけの広さは確かにあるはずだ」(『トリストラム・シャンディ』上巻 301)

 ひとを選ぶ箴言

おむつを替えている場合ではない。おつむを変えるのだ。

 続・続・知識人の危機

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 モーダル・ミュージコロジー/ヒストリオグラフィー

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 続・知識人の危機

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 ひとを選ぶ箴言

学校で僕らが学ぶもっとも重要なことは、「もっとも重要なことは学校では学べない」という真理である。by村上春樹

 知識人の危機

精神の危機 他15篇 (岩波文庫)作者: ポール・ヴァレリー,恒川邦夫出版社/メーカー: 岩波書店発売日: 2010/05/15メディア: 文庫購入: 3人 クリック: 29回この商品を含むブログ (30件) を見るホモ・ルーデンス (中公文庫)作者: ホイジンガ,高橋英夫出版社/メー…

 本をめぐる遊歩(その3)

耽美主義的空間やデカダンの個室を完結させるのは、蒐集ではなく、選別ではないか、という話。もう少し連想を広げ、妄想を逞しくしてみよう。 そういえば『中世の秋』でホイジンガは、末期中世とデカダン文化の類似を示唆していた。ウォルポールを嚆矢とする…

 本をめぐる遊歩(その2)

書物の蒐集家にとって、よく知られている入手方法のうちで最も骨の折れないのは、図書を借りてかつ返さないというやり方です。私たちがいまここでありありと思い浮かべることができるような、並はずれた図書借りだし魔は、根っからの書籍蒐集家であることが…

 断章、dis-aster、形式

The Writing of the Disaster: L'Ecriture Du Desastre作者: Maurice Blanchot,Ann Smock出版社/メーカー: Univ of Nebraska Pr発売日: 1995/05/01メディア: ペーパーバック クリック: 2回この商品を含むブログ (1件) を見る http://sankei.jp.msn.com/life/…

 本をめぐる遊歩(その1)

書物の敵 (講談社学術文庫)作者: 庄司浅水出版社/メーカー: 講談社発売日: 1990/05メディア: ペーパーバックこの商品を含むブログ (2件) を見る本棚の歴史作者: ヘンリーペトロスキー,Henry Petroski,池田栄一出版社/メーカー: 白水社発売日: 2004/01メディ…

 ヴァレリー

ヴァレリー・セレクション (上) (平凡社ライブラリー (528))作者: ポール・ヴァレリー,東宏治,松田浩則出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2005/02/01メディア: 新書購入: 3人 クリック: 19回この商品を含むブログ (27件) を見る 人間の精神はその追求するもの…

 狂ったポーターたちのハカリゴト

ポータブル文学小史作者: エンリーケ・ビラ=マタス,木村榮一出版社/メーカー: 平凡社発売日: 2011/02/15メディア: 単行本購入: 2人 クリック: 9回この商品を含むブログ (22件) を見る 地獄の時間としての「現代」(モデルネ)。この地獄の懲罰とは、いつでも…

 letters

予告された殺人の記録 (新潮文庫)作者: G.ガルシア=マルケス,Gabriel Garc´ia M´arquez,野谷文昭出版社/メーカー: 新潮社発売日: 1997/11/28メディア: 文庫購入: 11人 クリック: 95回この商品を含むブログ (222件) を見る アメリカ小説はおろか、英語からも…

 狂熱

自己分析 (ブルデュー・ライブラリー)作者: ピエール・ブルデュー,加藤晴久出版社/メーカー: 藤原書店発売日: 2011/01/19メディア: 単行本購入: 4人 クリック: 25回この商品を含むブログ (14件) を見る ハビトゥス、ディスタンクシオン、シャン・・・。 フラ…

 demo-cratic noise(s)

一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル作者: 東浩紀出版社/メーカー: 講談社発売日: 2011/11/22メディア: 新書購入: 14人 クリック: 581回この商品を含むブログ (164件) を見る 政治の話というと、だいたい新聞に書いてあるようなことしか言わない輩が多い…

 革砥とタイプライター

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 ある日の倫敦

ナショナルギャラリーは教育機関なのだろうか。下手な絵画史一冊読むよりも、ここの布置連関を解釈していったほうがずっと刺激的。ざっくりしすぎているきらいはあるが、さすが博物学帝国、整理がうまい。 パターン化された神学的構図から神話・歴史と神学の…