『天使の食べものを求めて』ツイート

天使の食べものを求めて―拒食症へのラカン的アプローチ

天使の食べものを求めて―拒食症へのラカン的アプローチ

 

 『天使の食べものを求めて』読了。歴史上の拒食症女性たちの生い立ち、生き方を具に追いながら、拒食症の形式をあぶり出そうとする一冊。ラカンを始めとする精神分析の立場からの考察ではあるが、それほど晦渋になることもなく、単に拒食症の女性たちの境遇を思いやるという読み方も許されると思う。
 アンティゴネーとシモーヌ・ヴェイユの章が印象的。拒食症と言えばカレン・カーペンターが真っ先に頭に浮かぶところだが現代女性の分析はない。ただ巻末の解説は、現代の拒食症にも触れ、様々な文化事象の変容がありながらも、拒食が一定の形式を持っていることをラカン理論と共に丁寧に説明している。
 特に、欲求―要請―欲望の関係についての説明は出色。現代はますます欲望の領域が手狭になってきているというのは同意。病気の寛解に向けた取り組みもさることながら、症状にある種の抵抗・創造性を見出していくことも必要かもしれない。〆
 拒食症/過食症の診断名は、一般的には摂食障害でしょうか。遺伝子レベルでの解析も進んでいるようですが、その発現を促す環境因子についての研究も同様に必要なようです。
 
 【以下、解説を担当された方への応答】
 同書を読んで少し考え方が変わってきました。患者はいつも病名を宛がわれて、看病され、治療を施される「客体」と看做されますけど、DSM的世界を離れて社会に患者を置き直してみると、文化の「主体」でもあるわけですね。
 特に精神疾患の場合、陰に陽に社会性を奪われることになるわけですが、患者の症例そのものに社会性はある、という見解、興味深く拝聴しました。
 ラカン理論の入り口としてもいい本だと思いますが、様々な読み方ができる本だと思いました。それはラカン理論にとっても重要なことだと思います。〆