シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』より

 

重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫)

重力と恩寵―シモーヌ・ヴェイユ『カイエ』抄 (ちくま学芸文庫)

 

 正義。他人とは、その人がすぐそこにいる場合(あるいは、その人のことを考えている場合)に、自分が<読み>とっているものとは別のものなのだということを、つねに認める心がまえでいること。でなければ、むしろ、その人は自分が<読み>とっているものとは、確かに別なもの、おそらくは全然別なものであることを、その人において<読み>とること。
 人おのおのは、別なふうに<読み>とってほしいと、沈黙のうちに叫んでいる。


 

 人は、自分のほうも<読んで>いるが、他人からも<読まれて>いる。読みと読みとが衝突しあう。だれかある人に対して、自分がおまえを<読む>とおりにおまえもおまえ自信を<読み>とるようにせよと強いること(奴隷にすること)。他の人々に対して、自分が自分を<読んで>いるとおりに、自分を<読んで>くれるように強いること(征服)。機械的な作用。多くの場合、耳の聞こえぬ者同士の対話。

 いろんな<読み>。<読み>は、――ある程度の高い注意力がはたらく場合を除いて――重力のままに従う。重力がさし出してくる評価をそのまま<読んで>いる(わたしたちが、人間や諸事件に対して価値判断をくだすとき、情念や社会に一般に通用している正説がどんなに大きい部分を占めるか)。
 さらに高度な注意力をもってするならば、重力そのものも、用いうるさまざまな均衡の方法も<読み>とれる。