- 作者: 竹村和子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2013/05/16
- メディア: 単行本
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竹村和子『境界を撹乱する』は読了済み。前半は主として構築主義以降のフェミニズムの展開についての論稿が並ぶ。デリダ・バトラーが行為遂行性の失敗に注目することを論じた9章、バートルビーの仮定法が語り手に語りを促し、主体=服従(subject)の無限循環の彼岸を出来させるとする11章がおもしろかった。 14章のホモ・サケル論は、被虐待者だけではなく、加害者の側をも非人間化させる点に注目している。
全体として精神分析の知見をいかにしてフェミニズムに取り込むかに腐心していた竹村の思考の軌跡が浮き彫りになっている。特に、メランコリー論の展開には『妻殺し』と併せて注目したい。
ただ、わたしはすべてを政治化していく方向には違和感を持っている。特に潜勢力は現勢化しないと意味がないという方向に竹村は傾倒しているが、トリン・ミンハのようにもう少し潜勢力のままの状態を評価した方がいいのではないか。前=政治的な緩衝地帯を保持しておかないと文化=政治と同じ轍を踏む。
とはいえ、圧倒的な熱量で懸命に生きてこられたのだな、とこの竹村和子の死後の生ともいうべき浩瀚なる三冊の本を読み終えて、しみじみ思う。あとは『愛について』が残っているが、これにはもう少し修練を積んで臨みたい。〆