奴隷制は儲かるのか

 もろもろ。弁当。
 スカパーでライヴ・アース(22時間なので最後のちょっとだけ)。トリはThe Policeかと思いきや、オオトリが控えていてYMO。日本向けか。
 続いてディスカヴァリーで不倫話。ジェファソンと黒人奴隷の不倫とかディケンズ列車事故とかヴィクトリア女王の皇太子の不倫とかマリア・カラスとかケネディとかもちろんクリントンとか。なんでしょう、よくそんなパワーあるなあ、とか思う私はパワーが足りないんでしょうか。


Slavery And American Economic Development (WALTER LYNWOOD FLEMING LECTURES IN SOUTHERN HISTORY)

Slavery And American Economic Development (WALTER LYNWOOD FLEMING LECTURES IN SOUTHERN HISTORY)

 奴隷制経済を分析・評価しようという研究書は数多い。
遡れば、すでに1930年代には、時代を代表する歴史家Ulrich Phillipsが、奴隷制経済の不経済を喝破している。*1奴隷制からいち早く脱した北部経済が、様々な投資を行うことができたのに対して、奴隷制に依存した南部経済は、投資を新しい奴隷を購入することに集中させていた。また、奴隷制は投資を奴隷に集中させる結果、その投資が失敗するリスクを奴隷の労働の如何に負うこととなった。自由労働の場合、労働者に対する初期投資の必要性は全くなく、彼らが働けなくなった場合も、他の労働者で補うことができた。しかし、奴隷制の場合、奴隷に対する初期投資は時代を経るごとに高騰し、また奴隷労働を通じてその初期投資を回収する段において、奴隷が病気に罹ったり、あるいは彼らが逃亡したりする可能性は無視できないほど高かった。南部経済はリスクを分散できなかったのである。このようにして、Phillipsは、奴隷制経済の不経済を早々に指摘していたのである。*2
 本書の著者Gavin Wrightは、奴隷制の経済性を考察する多くの論者が、労働力としての奴隷を焦点化する労働関係と生産性ばかりに注目し、奴隷制のもうひとつの側面、すなわち「モノ」としての奴隷を等閑視してきた点に注目する。奴隷は北部の自由労働と対立する労働力であると同時に、時代の変遷と共に改正される法によって制約を受けた「不動産」でもあった。Wrightは、従来奴隷制に適用されてこなかった財産所有権の観点とその法の護持/改変に関わる政治の観点を付け加えることで、奴隷制の労働関係をより豊かに解釈しようと試みる。すなわち著者は、1)労働関係、2)財産所有権、3)政治体制、という3つの観点の相互依存性の中で奴隷制経済を捉えようと考えたのである。(明日に続く)

*1:1970年代に入ると、Fogel&EngermanのTime on the Cross 奴隷制の収益率の高さを主張して大きな話題となったが、その "cliometrics" なる方法論はデータの不備とモラルの欠如という両面から批判され、この手の論は下火となった。

*2:イギリスの奴隷制の不経済に関しては、人道的観点からではなく、砂糖経済の衰退と新しく勃興しつつあった産業経済に動機付けられて奴隷制は廃止されたとする、the Williams thesis(Eric Williams, Capitalism and Slavery) が有名。